高い声を出したい。
力んでいるのはわかるけどどうしていいかわからない。
気持ちよく歌えるようになりたい。何を意識したらいいの?
そんな人に読んでほしいお話です。
こんにちは、ボイストレーナーの入来院真嗣です(@contro_re)
プロアマ問わず1000人以上、レッスン回数でいうとそれ以上レッスンを行なってきました。歌の専門学校ではボイストレーニングの授業を担当しています。
『今回のテーマ』
・発声で失敗している人の特徴と目指すゴール
・高い声を出すためのチェックポイント
・練習方法と音源
・発声練習向きの曲選び
今回は高い声が出ない人が意識したいチェックポイントや、練習方法についてお話しします。
音質に個人差はありますが、高い声は決して特別なものではありません。焦らずポイントをしっかりクリアすれば、高い声は出せるようになります。
実際問題、僕は事務所に入る前は1オクターブも声が出ませんでした。
曲どころかワンコーラス(1番のみの歌唱)すらまともに歌えなかった僕が、効率的な発声を教わり、様々な経験を積んだことで現在ボイストレーナーとして人に教える仕事に就いています。
早速お話ししていきます。
楽に出せる高い声のゴールとは
まず大前提として、『ゴールの状態を想像すること』が大切です。
楽な発声ってどういう状態でしょう?
なんだってそうですね。
目的もなく歩き始めてゴールにたどり着くことは殆どありません。
高い声が出せなくて悩んでいる人は、多かれ少なかれ自分の発声に違和感を持っているはずです。
息が苦しい
喉が痛い
お腹が硬い
口が動かない
目の前が真っ白になる
などなど。
少なくともこんな要素は楽な状態ではないですね。
まずは自分なりにゴールを想像しましょう。
出せないけどどこも苦しくないという人、何も変わっていないけどなぜか出せないという人は存在しません。しっかり感覚を磨いてください。
発声は全体のバランスの安定が大事
声が作られているのは声帯、つまり喉の辺りです。
しかし喉を支えているのはその周りの骨や筋肉で、その周りの筋肉を支えているのはそこから更に遠い身体の骨や筋肉です。
全ては影響しあっています。
発声は喉周りだけで完結する話ではありません。
何がどうというマニアックな話は置いておいて、高い音を出したい人、そして全身の連動を感じたい人はぜひこちらの記事をチェックしてみてください
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高い音ほど声帯は伸びる
声帯は高い音ほど引き伸ばされていきます。
その動きを邪魔しない中で、それぞれの音程音質にちょうど良い声帯の閉じ具合、息の流れが組み合わさることで『発声』となります。
高い音が出せない人はどれかが働いていなかったり、どれかが頑張りすぎたりしています。
それは残念ながら人によります。
薄くなった声帯をピタッと閉じるバランスと分厚い声帯をピタッと閉じるバランスは同じではないですし、そこに息の流れ、フレーズ感が重なると頭で考えてどれが何対何で、なんて考えることはできないし間に合いません。
ここではまず、ゴールとしてそれぞれを邪魔しないという意識だけ覚えておいてください。
共鳴腔があるから言葉が作られる
声帯は二枚のヒダが何度も重なって振動して音を作っているにすぎません。
声を出さずリップロールしている状態がイメージとしては近いです。
そうそう『喉頭原音』
その音が声帯より上の形次第でアイウエオに変化、『言葉』になります。
声帯で音が作られるだけで、声帯だけで言葉が作られるわけではないということを覚えておきましょう。
どこかが頑張りすぎているのは不安定の証拠
以上まずは大前提として知っておきたい情報をお伝えしました。喉周り以外でも、身体に辛い部分があるのは『楽な発声、安定した発声』とは言えません。
練習を始める前に、楽な発声とは何かという自分なりのゴールをしっかり見据えておきましょう。
失敗している人の特徴2つ
次に失敗している人の特徴です。
“どこかが頑張りすぎているのは良くない” というお話をしましたが、中々自分を客観的に判断できない人もいます。
そこで、歌いづらい人の中でこうなっている人は余計な力が入りやすいという目安をお話します。
高い音ほど力む、声が出しづらい、大声になる
前述の通りまず声が出しづらくなっている時点で余計な緊張が入っている可能性が高いです。
身体は何かが不自由すると他の何かがサポートするように頑張る仕組みになっています。
そしてわかりやすい例が”大声” です。
口を閉じたまま息を吐こうとしてみてください。
当然吐けません。
そのまま息の強さはキープしつつリップロールしようとすると凄く強い振動と音が出ると思います。
喉も同じです。
息が吐けないくらい固めている所にこじ開けようとすると、こじ開けた時すごく大きい声になるし、こじ開けられない時は声が出なかったり疲労が凄くて発声どころじゃなくなっています。
そしてこの状態はあっという間に喉を痛めてしまいます。
自覚がある人は可能な限り早くやめましょう。
”表現” ばかりに気を取られている
言葉を大切にしすぎている人も注意が必要です。
感情表現を無意識に力の入れ具合で行なっていて、その力を”必要なもの” として手放せなかったりします。
リアルな感情と乱暴な操作は別物です。
例えば一ヶ月公演のある役者が、舞台初日でリアルだけど乱暴な発声をして喉を潰したら残りの公演はできません。感情表現は音に現れるべきであって力み具合を目安にしてはいけません。
表現を大事にしている人は少し意識してみてください。
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高い声を出すためのチェックポイント5つ
それでは具体的なチェックポイントです。
基本的には身体のバランスが崩れていないか、余計な緊張が入っていないかという部分の確認になります。
下から順番に見ていきましょう。
①骨盤が前後しすぎていないか
呼吸に関わる大切な筋肉として、骨盤底筋群があります。
横隔膜や腹横筋などと一緒に体幹を支える役割をする筋肉です。ここが働かないと逃避動作として腹式と呼ばれるお腹周りの呼吸筋の作用を避けるという研究結果もあります。
これらが自然に協力し合うためには、骨盤が前に傾きすぎても、後ろに傾きすぎても良くありません。どちらに傾きすぎても体幹や声帯周りに余計な緊張が生まれやすくなり、結果として良い発声から遠ざかってしまいます。
②腹直筋を伸ばす(固めない)
シンプルな話です。
試しに六つに割れる腹筋(腹直筋)にしっかり力を入れてガチガチにお腹を固めながらワンフレーズ歌おうとしてみてください。
とても歌いづらいと思います。
特に吸う時。
腹直筋は肋骨から恥骨のところまで続いているなかなかに大きな筋肉です。
これが収縮すると肋骨を下の方向に引っ張ります。
なので、吸う時の広がろうとする胸周りのバランスとは直に喧嘩します。
また、肋骨の上の方には喉周りの発声に関わる筋肉が付着しています。
お互い逆の方向に収縮する動きをするのですが、大きな腹直筋と小さな喉周りの筋肉、戦ったらどちらが強そうか想像してみてください。
厳密な働きや協働は少し異なりますが、腹直筋を固めすぎるとよくないというのはイメージできたと思います。
③胸郭を広く保つ
身体はバランスでできています。
胸が落ちる
首が前に出る
猫背になる
この辺りは連動しています。
そして胸郭が狭いと肋骨の中の肺がしっかり広がり切ることができません。
ロングトーンやより大きな声、息漏れたっぷりの声など発声表現に息は必要不可欠です。
肺が自由に広がるためにも、胸郭はリラックスして、姿勢で不必要に縮めないようにしましょう。
ただし、胸だけ張ってしまわないように気をつけてください。
④首が前に突き出ていないか
③と理由は似ています。
首が前に出ていると胸が落ちやすくなり、呼吸が浅くなりがちです。
首が支えている頭部の重さは体重の約10%と言われています。効率よく支えて首回りの筋肉が発声に集中できるよう、首が突き出ないようにしましょう。
また、首の後ろが縮んでいる状態も避けましょう。
喉の後ろ、三番頚椎あたりから喉の方にグッとスライドが起こると空気の通り道を狭くしたりし、声が出づらくなってしまいます。
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⑤顎の開閉や舌、喉奥周りは自由か
この辺りがガチガチだと、発声はもちろん滑舌にも影響します。
テンポが速くなったり音が高くなると急に歌えなくなるという人はこの辺が固いことが多いです。
顎の緊張、舌の緊張、発声の緊張は連動していることが多いです。アイウエオの基本的な口の形を意識し直したり、舌の力を抜く練習をしながら脱力を意識してみてください。
また、最初に述べた通り共鳴腔(音が響く空間)があるからこそいい声は生まれます。
口の中をしっかりリラックスし、空気の通り道が緊張で狭くなってしまわないよう広くキープしましょう。
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高い声の練習は楽に出る音域から始める
そして練習をする上で大切なお話です。
高い音の練習は、しんどい音域だけでなくその前の中音域から始めてください。
問題は急に起こらないからです。
高い音が出ないといっても、急にスイッチが入って出づらい使い方に切り替わるということはまずありません。
1・その前から少しずつ余計な力が働いていき
2・徐々に苦しくなり
3・とうとうどうしようもなくなった時に声が出せなくなるのです
なのでいきなり高いところから始めず、まずは余計な力が入らない意識で練習してみてください。
余裕があればしっかりチェックできる
また、低いところから始める理由はそれだけではありません。
楽に出せる音域ということは、それだけ余裕があるので他のことに気を配れます。
あれもこれも気にしながらあれもこれもやりながらというのはとても大変です。
– 気がついたら目を瞑ってしまう人などは可能な限り目を閉じないで歌う練習をしてみてください。目を瞑って自分の世界に入っていると言えば聞こえはいいですが、大抵は現実逃避で体の操縦をオートに任せて癖だらけの発声になりがちです。
余裕はとても大切です。
余裕があるからこそ新しいことに挑戦できるし、挑戦したことに対して冷静に判断できるメリットがあります。
声を出している時に前述した5つのポイントは問題なくクリアできているか、しっかりチェックしてみてください。
練 習 方 法
以上を意識しながら発声練習を行なっていきます。
がむしゃらに練習するのが好きな人や冷静さを失いやすい人ほど、まずはシンプルな練習から始めてみましょう。
a母音で規則的な音階練習
まずはシンプルに “a” 母音で3度幅から始めましょう。
注意)画像は音の幅の目安です。歌い出しの音程ではありません。
焦らずコツコツと、力任せにならないように練習しましょう。
前述の5つのポイントは全て大切ですが、特に舌や喉周りに余計な力がどんどん入っていかないようにしましょう。
あいうえおの母音で規則的な音階練習
あ母音で慣れたらイウエオ、それ以外の母音に変化させつつやってみましょう。
12321の3度練習なら「あいうえお」でぴったり5文字です。母音の順番を入れ替えたりなどして色々試してみましょう。
練習曲を実際に歌唱してみる
ある程度問題なさそうなら実際に曲で歌ってみます。
まだ不安だという人は歌詞を全部母音だけで歌ってみるのも練習になります。
「かえるのうたが」
なら
「あえうおうああ」
となります。
舌や顎が大きく動き出すとどうしても過剰に力んでしまう人は、動き出さない状態の発声に慣れてから挑戦してみてください。
発声練習向きの曲選び
最後に練習曲のお話です。
高い音を練習するにあたって難易度や向き不向きが存在します。
発声練習という意味では、
『音の跳躍が少なく言葉数の少ないバラード』
がおすすめです。
言葉数が多かったりテンポが速くなってくるとどうしても歌詞を言うことに集中しがちで、余計な力みが発声しやすくなってしまいます。
曲のキーは自由に変えよう
原曲キーでしか歌えないと言う人はその部分に関しても練習が必要です。
発声練習のためにも自身の聴く力強化のためにも、キーを変えて練習しましょう。
キーを変える場合の目安は『サビの一番高い部分あたりでちょっとしんどい』です。
そこから問題なさそうであれば半音ずつ、キーを上げていってください。
最後に
以上、高い声が出せない原因と改善のための注目点、そして練習方法でした。
無理せず一つずつ悪い癖をなくしていきましょう。歌は全身運動です。
そして自分ではよくわからないという人は是非、レッスンを受けてみましょう。