ボイストレーニングで複数の先生のレッスンを受けることは割りとよくあります。学校の仕組みで自由に先生が選べたり、いくつかの授業を受ける上で自然と複数の先生から教わったり。また、自分でネットや本で調べて練習している人も大体が複数の先生から教わっていると言えます。そしてある日気づきます。あれ? なんだか先生同士で言っていることが違うぞ? これはいったいどういうことだ?
こんにちは。ボイストレーナーの入来院真嗣です。
年間1000件以上もレッスンをしていると、生徒からこういう悩みを相談されることも結構あります。今回はそんなときどうすべきかいくつかご紹介したいと思います。実際にそういう事態に直面しているなら少しでも悩みや迷いが減るでしょう。
言ってることが違うとかではなく、自分のやりたい方向性と本当にあっているのかといった悩みがある方はこちらの記事をご覧ください。
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先生が何を大切にしているかを知る
まずはここが大事です。
声を出して何かを表現するには呼吸をコントロールする筋肉と、原音となる声帯をコントロールする筋肉、そして姿勢を作る筋肉が必要です。
しかし、高い音で苦しくなったりちょっと喋るだけで声が枯れてしまったりする人というのはこれがうまく機能していません。本来使うべき筋肉が不安定だったり、逆に使う必要のない筋肉を使いすぎていたりします。
そこで先生はあなたをみてこう考えます。
・ここの力が入りすぎているな、やめさせよう
・ここの使い方が弱いな、もっと意識させよう
これはどちらが正しいというわけではありません。先生の経験に基づいて、ゴールから逆算して何を優先させているかの差なのです。
悪い癖をやめさせたい先生
人間の身体はとても優秀です。
何かの働きが弱いと代わりに他の何かがそれを補うように、かばうようにして働き始めます。
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不自由な身体とそのサポート。これが結果として、苦しい発声だったり悪い姿勢に繋がるのです。
つまり、悪い癖をやめさせたい先生は、それによって得てしまう悪い結果から少しでも早く遠ざかり、より効率的な(正しい)状態に身体を近づけたいと考えています。
作業の遅い友人をかばって手伝っていては、いつまでたってもあなたは忙しいままですよね?
はじめは不器用でたどたどしくても、友人自身がその作業を繰り返していき仕事を覚えれば結果としてあなたは自由になり、心も身体もよりいっそう楽になっていくのが想像できるでしょう。
効率的な使い方を癖付けたい先生
人間の身体はとても優秀です(二回目
何かの働きが弱いと代わりに他の何かがそれをかばうようにして働き始めるのですが、逆に言えば “本来働くべきものがしっかり働いてくれればサポートは必要ありません”。
結果として少しずつ余計なことはしなくなっていきます。
効率的な使い方を癖付けたい先生は理想の状態、ゴールを強く意識させることで、悪い癖を行わないようにしていると言えるでしょう。
本当はどっちもやっている
ただ、現実問題どちらかだけを徹底している先生はいません。
文章を読んで感じた方もいるかもしれませんが、この二つは真逆の指針に基づいているようでゴールは同じです。どちらに焦点を当てているかの違いでしかありません。
ですので大抵の先生は、「こういう理由があるからこういうことをやっちゃダメだよ。今の悩みを解決するにはこういう意識でこういう状態を目指して練習してみよう」といった提案をします。
多いね
例えだからね。
理解できなかったり先生が説明不足なら更なる説明を求めましょう。
また、自分の視野が狭くなってしまい、”やっちゃいけないこと” や “やらなきゃいけないこと” のどちらかにばかり意識がいってしまうなら一度今までレッスンで言われてきたこと、やってきたことを振り返ってみましょう。大切なのは部分的な使い方ではなく全体のバランスです。
もちろんそれでも先生同士の言葉で矛盾して聞こえる場合があります。
顎を上げろ、いや下げろ。
音は頭の上に突き抜けるように、いやいや音は地面に向かってしっかり支えるように。
喉仏は上がってはいけない、いやいやいや別に多少は上がってもいいよ。
などなど。
そういった場合に必要になってくるのが次のステップです。
迷ったなら言葉の意味を詳しく尋ねる
先生が説明して、自分が理解したつもりなのに上手くいかない場合、先生と生徒でイメージのズレが発生しています。どこにズレがあるのか探してみましょう。
自分のためだからね。ボイストレーナーはあくまで生徒の成長のお手伝いをするだけなんだから、生徒自身が積極的に頑張る必要があるのです。
完璧な”ミックスボイス”は存在しない
さて。
ボイトレ界に突如現れた魔法の言葉”ミックスボイス”。しかし、実は業界全体で明確な定義がされていないのをご存じでしょうか?
裏声でも地声(表声)でもない、どちらのバランスも使ったその中間の声、みたいなイメージはあると思います。
しかし具体的な定義付けはされていないため、また、使っている筋肉が外からは観察できないため、同じ歌手が歌う同じフレーズを聞かせても先生によって「これはミックスボイスだね」「これは地声だね」「これは裏声ベースのミックスボイスだね」「これはミックスボイスじゃなくてミドルボイスだね」なんて本当にバラバラなのが現状です。
じゃあどうするのか。
ぜんぶ連動している
結局声というのはいろんな筋肉のバランスから成り立っています。
知らなければいけないのは、先生がどういう状態のことを指してミックスボイスと言っているのかです。
他にも、どういう状態を指して呼吸が上手くいっている、フレージングが安定していると言っているのかを具体的に知ることで、より成長した状態に近づいていくことができるでしょう。
・姿勢が安定すればいろんな身体の使い方を考えることができます。
・呼吸が安定すれば、発声のことを考える余裕ができます。
・発声が安定してくれば、より細かい表現や、姿勢による身体操作もできるようになるでしょう。
何か一点を気を付けてすべてが上手くいくということはまずありません。そうやってぐるぐる周りながら、自分に必要なものや必要でないものを意識していくことで成長していくのです。
先生の背景を知る
その上でもう一つだけ大切なことがあります。
僕も教える側の仕事につくまでは、芸能活動をしながら様々な先生に教わってきました。ボイトレ本やネットの情報も含めるとキリがありません。
はじめのうちは何も気にせず書いてあること、言われることを鵜呑みにしてがむしゃらに取り組んでいたのですが、ある日ふと恩師に言われて気づかされました。それが、『教えてくれる先生の背景』です。
簡単に言うと、
先生はクラシックを勉強してきた人なのか、
ロックを歌ってきた人なのか、
演歌に精通している人なのか、
解剖学を学びながら歌を訓練してきたのか、
などなどです。
基礎発声としてある程度共通したものはあるのですが、やはりジャンルによって筋肉の使い方、身体の使い方は多かれ少なかれ異なります。
それを前提とした上で基礎を教えてくれる先生もいます。
しかし、自分が触れてきた音楽ジャンルを背景に、特定のジャンルに片寄った発声法を”基礎”として選ぶ先生もいるのです。
もちろんこれが絶対に悪いわけではありません。
スタイルにこだわる以前に直すところがいっぱいある人はまずなんだろうとその悪い癖を改善することが急務でしょう。
たくさん書きましたが、おまけ程度に頭の隅にでも置いておいてください。
最後に
いかがだったでしょうか。
具体的な矛盾の内容は扱っていませんが、悩んだときどうやってスッキリするかの手助けにはなったかなと思います。
もし具体的な矛盾や悩みがあった場合は個別にお問い合わせください。いつか記事にするかもしれません。また、待ちきれないという方は是非レッスンを受けてみませんか? お待ちしてます。
ボイトレはしたい。お金はかけたくない。頑張っていることは知られたくない。そんな人たちに読んでほしいお話です。これを読めば独学で練習する際気をつけるべきポイントが分かります。練習効率が上がるので是非お付き合いください。こんにちは、ボイス[…]