言われた通りに練習しているつもりがなかなか上手くいかないことはありませんか? 上手くできないのは自分がレベルが低いからと思ったことはありませんか? そのまま練習を続けていると危険かもしれません。
イメージの共有ができないとこうなる
レッスンを受けに来た生徒さんの中にこんな人がいました。
20代の男性。プロを目指しているわけではないですが、知人や会社の同僚とカラオケに行った時恥ずかしくないくらいに歌えるようになりたいという希望をお持ちの方です。
実際に歌ってもらうと喉周りの筋肉をガチガチに固め顔を真っ赤にして1オクターブ以上の声は出ないという状態でした。このままではカラオケのたびに喉を枯らし、いつ声帯ポリープができても不思議ではなかったでしょう。ボイストレーニングを受けようと思ったのも納得です。
しかし、よくよく彼の話を聞いてびっくりしました。
なんと月に2〜3回、2年近く、別の場所でのボイストレーニング経験があったのです。
一体どのようなレッスンを受けていたのか私はとても興味を持ちました。
話を聞いてみるとどうやら「とにかく歌はピッチ(音の高さ)がしっかりあっていなければ聞けたもんじゃない。まずは音程をしっかり取れるようになりましょう」と言われレッスンを受けていたようです。レッスン中も声を伸ばして音が揺れるたび「しっかり音を掴んだら離さない!」とか「もっと腹から声をしっかり出して!」といったダメ出しが飛び交っていたと聞きました。
しかし、彼が思うように声を出せない一番の原因は舌の奥や顎、喉周りにグッと力を入れていたことです。余計な力を入れて、本来音の高さや響きによって引き上げたり引き下げたりと自由に動かなければいけない筋肉をガチガチに固めていたことがいけないのです。そんな彼に「音を掴め、掴んだら離すな」といった指導をした結果、彼はさらに喉周りの筋肉をガチガチに固め、その締め具合、力の加減で音を調整しようとしていたのです。
自分で声の通り道を固め塞いでおきながら、不安定になった音をさらに力でなんとかしようとする。これでは完全に悪循環です。
大切なのは質問すること
以上は極端な例です。
生徒さんの話を聞いただけなので実際どんなレッスンだったかはわかりません。ですがもしかしたら、先生はただ歌が上手いだけで発声の仕組み・身体の使い方に関してあまり深く考えたことがなかったのかもしれません。事実、生徒さんはその後数回のレッスンだけでも大幅に改善し、カラオケで一曲も歌えないということはなくなりました。
ここで知っていて欲しいのは ”言葉の受け取りかたは人それぞれ” だということです。
お腹から声を出せ、なんて言われても実際に声が生まれるのは声帯です。どう頑張ってもお腹から声は発生しません。もしそれ以外の説明がなかったならば、あとは言葉を受け取った側のイメージ一つで様々な “お腹から出した声” を作り出すしかありません。当然、人によって全く違った結果になるでしょう。
繰り返します。
言葉の受け取りかたは千差万別です。
ある事柄についてイメージで説明され、挑戦し、できなかった場合それはできない人のせいだけではありません。自分一人で頑張る必要はないのです。
質問しましょう。
あるやり方でダメだったのなら、そのやり方をやめ別の手段に挑戦するしか解決の道はありません。
より具体的な仕組みを知ることで解決することもありますし、別のイメージや例えを聞いた瞬間ストンと理解できる場合もあります。同じゴールでも先生によって指導方法が違うように、生徒さんが進む道も一つではありません。わからなければ更に質問し、わからないままにして先に進まないよう気をつけてください。できないのは自分のレベルが低いからだと思って突き進んでしまうと、何年も解決法がわからず苦しんでしまう可能性があります。
同じことの繰り返しは退屈するかもしれませんが、わからないまま進むよりマシです。最終的には頑張った分より遠くに行くことができるでしょう。