「自分の声って録音してみるとなんか変なんだよね」そう言って録音を避ける人は多いです。しかし、避けていては上達は遠のく一方です。
嫌いな声を売りに出す?
生徒さんの半分以上は夢を持ってレッスンに通っています。
歌手、役者を目指しています。
ところがそんな彼らに自分の声が好きかと質問してみると “嫌い” と答える生徒さんが一定数いるのです。
鼻声であったり滑舌が悪いなど具体的な理由ならまだわかります。しかし嫌いな理由としてあげられるのは “声質” です。声そのものが嫌いなのです。そして、それを理由に嫌いと答える生徒さんのほとんどは自分の声を録音して振り返ることを嫌がります。私にはこれがとても不思議でなりません。
夢を追いかけている以上声は商売道具です。商品であるともいえます。
自分が商品を嫌いなのに、それを人に “買ってくれ” というのはおかしくないでしょうか?
オーディションに受かる、役を掴む、事務所に所属してCDをだす。これら全て、誰かに自身の商品価値を認めてもわないことには手にすることはできません。
……勿論今の自分の声が嫌いだからこそ、夢をつかむため、好きになるために現在努力をしている途中だとも言えるでしょう。わからなくはないです。
ではそんな方に質問です。
一体どのタイミングで好き転じるのでしょうか?
そろそろ録音して聞いてみても平気かな、という日がくると考えているのでしょうか?
そうだとすると、その考え方はあまりお勧めしません。
録音を聴いて違和感を覚える一つの要因は声を聴くまでの道筋の違いが原因だからです。
骨導音と気導音
自分で出した声を自分の耳で聞く。このとき声帯の振動は空気だけでなく自分の頭蓋骨の振動を通じて耳に直接伝えられます。これを骨導音と言います。
一方で、録音された声というのは口から出た音が空気の振動を通じて耳に伝わった状態です。これを気導音といいます。
なんだか気持ち悪い、自分の声じゃないみたいで変、と思う方の原因のほとんどはこれです。
耳に伝わるまでの仕組みが違うのだから、どんなに発声が改善されようと普段自分の耳にする声と録音の声の間に違和感がなくなることはありません。
レッスンの先に得られるものは楽で負担の少ない自由な、しかし違和感のある声です。
知らないものは売れない
録音とは空気の振動を通して記録されたもの、ある種の「気導音」です。あなたの商売道具であり商品である “声” も空気の振動を通じて他人が受け取る音なので気導音です。すなわち録音を聴くことは、人にどう聞こえているかを知る機会とも言うことができます。
さらに質問を重ねましょう。
あなたは自分の声をどれだけ把握していますか?
良いところと改善点、それぞれたくさんあげることはできますか?
自分の売り物がよくわからない、客観的にどう聞こえているか把握していないのに商売にしたい、商品として売りたいというのは矛盾しているとは思いませんか?
確かに聞きなれない違和感だらけの声を自分のものだと言われても受け入れがたいでしょう。その気持ちはわかります。誰だって通る道です。ですが、録音した声と自分が話した時聞こえる声の違和感は何度も客観的に聴きかえすことでかえってどんどん解消されていきます。どちらおあなたの声です。違和感の最大の要因は聞き慣れないことです。その違和感をすり合わせ解決し、冷静な耳で弱点や苦手を分析できてこそ夢への第一歩と言えるでしょう。
積極的に録音を活用しましょう。録音した声は客観的な、商品としての自分の声です。何を改善すべきか、何を売りにし伸ばすべきか、しっかり把握し夢に向かって突き進みましょう。
最後に
気導音と骨導音。区別する言葉を使っていますが、それはあくまで聞こえ方の話。同じ声帯が震えて物理的に音が生まれている以上どちらが間違いでどちらが正しいということはありません。同じ音源を流してもイヤホンやスピーカーで違いがあるのと同じです。大切なのは注意深く聞いて、得意も不得意も含め自分の声を深く知っていくことです。焦らず一つ一つ確実に積み重ねていきましょう。
次の更新では録音のメリットをご紹介します。
・追記
関連記事を更新しました。→『録音するメリット』